それからの事は書く必要はないのかもしれません。月曜からは吹っ切れたようにおじさんに抱かれていました。登校途中と下校途中にセックスをされていたのです。車の中でです。わたしは求められるままにおじさんの所有物にされてしまった肉体を差し出して、最後には精液を注がれていました。おじさんの言う通り自分から腰を振るようになりました。そうしてしまうのです。恥ずかしいのに、してはいけない事だと分かっているのに、口では、「ち、違うのっ、これは違うのっ……わたしはそんなつもりじゃ……ちがうっっ……ぁぁ……おかしいよ、わたしの身体がおかしいのよ、おじさんっっ!!」と泣きながら腰が勝手に動いてしまうのです。
 それは例えば昼休憩の時もそうでした。来賓用トイレの個室の中、便座に座ったおじさんの膝の上に向かい合うように座って深く繋がり、わたしはスカートの腰を甘くくねらせていました。制服と髪を振り乱してです。「ああっ、ああんっ……はやくっ、はやく出してくださいっ……学校の中でこんな事っ、こんな事をするなんてっ……っっ……誰かが来てしまうわ……ああ、誰かに見つかってしまうっっ……おじさんイって、早くイって! ああっ、お願いだからはやく美雪のオマ○コにおじさんのザーメンを注いでください」って言いながら……。おじさんは、「いいのかい。いいのかい、美雪ちゃん。感じてるのかい。学校のトイレでセックスして、生徒会長のくせに発情した牝犬みたいにヨガリ声をあげたりして。このまま中に出したら妊娠しちゃうんじゃないのかな。今日は危険日でしょう、美雪ちゃん」って言うのです。わたしは、「いいのっ、いいのっ! 妊娠してもいいからっっ、おじさんの赤ちゃんが出来てもいいからっっ、このまま美雪の中に出してっっ!! 早くっ、だ、誰か来る前におじさんのザーメンでわたしの中をいっぱいにしてくださいっ!! おじさんの赤ちゃんが出来たら産みますからっっ!!」と小さい女の子のようにしがみ付きながら、腰から下だけを動かしてしまうのです。わたしは、わたしの身体はいったいどうしたというのでしょうか。
 そうして処女を散らされてから一週間後、わたしは家を出ました。


 これがわたしが家を出る事になった顛末です。はじめちゃんはすでに分かっていたかもしれませんね。だって、あの名探偵金田一耕介の孫なんですもの。
 でも勘違いしないでください。何度も書くようですが、おじさんは決して悪くありません。これはわたしの意志なのです。わたしが、わたしで考え、選んだ道なのです。おじさんに強要された事など一度もないのは、この手紙から分かると思います。おじさんはそういう性格ではないのです。おじさんはとても優しい人なのです。はじめちゃんよりも優しい人なのです。
 もしかしたらはじめちゃんは、わたしの行方を捜しているのではないでしょうか。もしそうだとしたら止めてください。わたしは今も元気で暮らしています。おじさんと暮らしています。おじさんの用意してくれたマンションで、おじさんの愛人として生きています。毎日、おじさんにセックスされて可愛がられて……でも時々、学校やミステリー研究会のみんなを思い出すのです。
 辛くて悲しくて泣いてしまう時もあります。でも、さっきも書いたけど、落ちた葉は二度と元には戻れないです。分かってください。
 この手紙を読めば、はじめちゃんはたちどころにわたしの居所を突き止めてしまうでしょう。でも、わたしはそれを一番恐れているのです。
 正直な気持ちを書きます。わたしは、本当は、今でもはじめちゃんが好きです。大好きです。世界で一番はじめちゃんを愛しています。でも、だからこそ、はじめちゃんと会うわけにはいかないのです。見つけて欲しくないのです。この気持ちと理由は、はじめちゃんなら分かってくれるものと信じています。今のわたしは昔のわたしとは違います。はじめちゃんの知っている七瀬美雪ではないのです。幼馴染だけど違う道を歩いてしまったのです。
 その証拠として三枚の写真を同封します。


 一枚目はホテルで処女を散らされた時の写真です。ベットの上で、ロストバージンに疲れて呆然としているわたしのアソコからおじさんの精液と赤い血が流れているのがはっきり分かると思います。この後おじさんはぐったりとしたわたしの隣にしばらくの間寄り添ってくれました。何枚も重ねたティッシュを使ってわたしのアソコを丁寧に拭きながら優しく、「愛してるよ、美雪ちゃん。一生大切にしてあげるからね」と言ってくれました。その時にどこまでもおじさんについて行く事を決めたのです。


 二枚目は生徒会室でセックスされている様子です。制服を着たまま、後ろからおじさんに犯されました。こういう場所でセックスをするのがおじさんは大好きです。他にも校舎裏や体育倉庫でもセックスをされました。体操服姿でセックスをされた事もあります。誰かに見つかるかもしれないというスリルの中、何度も激しく上りつめました。早く終わらせるために、恥ずかしい台詞をいっぱい口にして、ことさら激しく腰を動かしていたと思います。おじさんの話しによるとわたしにはM女としての素質があるそうです。


 三枚目は現在のわたしです。手足を縄で縛られて物みたいに天井から吊るされています。わたしの白い肌には縄が良く似合うらしく、最近は毎日縛られて吊るされて目隠しと猿轡をさせられてセックスをされています。銀のピアスもおじさんが買ってくれました。縄で縛られるのにも慣れてきました。後ろの穴ももうすぐ使ってもらえる予定です。この前、おじさん以外の男の人にも抱かれました。縄で縛られたまま身動きの出来ないわたしは、名前も知らない男の人に大切なアソコを使われてしまったのです。泣きながら懇願して必死になって抵抗したけど、どうしようもありませんでした。今度の土曜日にもまた誰かが来るそうです。きっとこれから数え切れない男の人に抱かれ、M奴隷として身体を使われ続け生きて行くんだと思います。


 わかってもらえたでしょうか。嫌な気分にさせてしまったのならごめんなさい。謝って済む事ではないと思うけど、謝らせてください。それとどうかお願いします。絶対にわたしを探さないでください。わたしよりも、玲香さんを大切にしてあげてください。それがわたしからの最後のお願いです。


 七瀬美雪


    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆



 そうして俺は手紙を読み返す。何度も読み返す。じっくりと、もう二〇回は読み返しただろうか。
 八枚綴りの便箋には鉛筆によって書かれた美しい字がびっしりと書き込まれている。流れるような書体でびっしりと書き綴られている。場所によっては消しゴムで消した跡が残され、所々涙が落ちたような雫の跡も見てとれる。俺はその一文字一文字をなぞるように読み返す。
 また写真を手に取って眺める。つぶさに観察する。悲しげな美雪の表情を、なまめかしい白い肌を、散らされた美雪のアソコをつぶさに観察する。縄は美雪の白い肌を食い込んでいる。細い身体のいたる所に紫色をした縄の痕が走っている。男は美雪を汚している。乳房の先端に飾られたピアスが痛々しい。
 俺は麦茶を口にする。麦茶はぬるくなっていた。そうしておぼろげながら情景が浮かんでくる。今もどこかで男に抱かれているであろう、美雪の姿が。男に抱かれ、あられもない喘ぎ声をあげる美雪の姿が。真面目な美雪からは考えられないようないやらしい姿で、男の上に跨りあさましく腰を振る姿が。
 俺はこの手紙に書かれている事は真実だと受け入れる。受け入れなければ前に進む事が出来ない。推理を走らせる事ができない。そこから全ては再スタートするのだ。


 だいたいの見当はついていた。それなりの噂は掴んでいた。
 封筒や手紙には直接的な情報は書かれていない。ポストに入っていたが、本当に配達されてきたのか怪しい。押された消印は恐らくカモフラージュだろう。でもそれは居場所を誤魔化すという意味ではなくて、名探偵の孫である俺を試しているのだ。嘲り、どれほどのものだとからかって楽しんでいるのだ。
 手紙を書き綴る美雪の背後で愉快気に笑う男の姿が浮かぶ。暗い部屋の中、美雪は全裸のまま机の椅子に座っていた。悲しい色をした瞳で泣きながら手紙を書き綴っている。その背後で男は、美雪の白い乳房を揉み続けている。揉みながら美雪の背中にキスをし指示をして、銀のピアスに貫かれた美雪の乳首をピアスごと引っ張って遊んでいる。時間をかけた巧緻な罠により、真面目な美雪を口説き落とし、俺から美雪を引き離した男の姿だ。
 俺は過去の記憶から人物を精査する。該当しそうな人物を洗い出す。瞬時に一桁台の容疑者に絞られて、俺はコップの麦茶をゆっくりと飲み干した。
 警察の力を借りるわけにはいかない。手紙に書いてあるように、これは俺一人の力で解決しなければならないのだ。美雪は探さないでと書いていた。これは美雪の性格からすれば本心だろう。でも、たとえ本心だとしても探さないわけにはいかない。その事は美雪も分かっているはずだ。俺が美雪の性格をよく知っているように、美雪は誰よりも俺の性格を知っている。俺たちは姉弟のような幼馴染なのだから。
 そして自分一人の力で美雪を見つけだした時に限り、美雪を連れて戻る事が出来るんだと俺は確信する。そうだ。俺は必ず美雪を連れて戻る。絞込みにそれほど時間はかからないだろう。尻尾を掴むのは難しくない。目的を達成した犯人はそのトリックが完全であれば完全であるほど得てして油断しているものだ。


(六日……いや、三日で見つけだしてやる。待ってろ。すぐに助けてやるからな、美雪)


 俺はそう心に誓う。行動を開始する。これから不眠の日が続く事を自分に言い聞かせる。
 美雪は言った。落ちた葉はもう二度と同じ木には戻れないのだと。それは違うと俺は思う。戻るのではないのだ。同じ木で寄り添っていた頃のように、川面でも同じように流れ河口まで辿り着けばいいだけではないか。何も元の木に戻る必要などありはしない。例え流れが二つの木の葉を分かつとしても、俺は美雪の手を離しはしない。全力で泳いで、美雪の隣に寄り添い続ける。それでいいではないか。澱みに捕らわれているのは美雪自身だ。悪い男に心の隙を突かれ、真面目ゆえに考えに縛られすぎている。俺はどんな事があっても、たとえ取り戻した美雪が以前の美雪ではないとしても、美雪を、美雪だけは失いたくないと思った。


(絶対に助けてやるさ、じっちゃんの名にかけてな)


 俺は立ち上がった。窓の外では朝日が上りはじめていた。