カルピスウォーター第3話




 この時点でこの場所で「アゲマソ」コロッケを口内に頬張っている僕自身も、実のところ結構な危ない事態に巻き込まれつつあるということを薄々は自覚しはじめてはいたものの、だからといって、「僕にいま何ができますか?」、と一応に自問自答はしてみる。けれども、僕の頭は、即座にポンと答えを導き出してくれるほど性能の良い代物ではないことは、常日頃の行いで重々分かっている。どのようにここからどうこうする。そんなことさえも頭に思い浮かばないまま、術さえも持たない僕はどうしようもなく、ただ虚ろにその光景を眺めることしかできないわけだ。
4人の内、鬼のような面をした男が、ずいっと前に出てきた。男の笑みにこちらは顔を引き攣らす。
「マジ、いまよく見。なかなかいい感じじゃん」
「かなりっしょ」
「てか、こいつ、なに変なこと言ってんの。マジわけわかんねえよ」
ボサボサの長髪長身、口からよだれを垂らしている男が、高笑いし、隣のスキンヘッドの肩を抱く。
「てか、もうここまで来たからにはな、ヒヒヒッ」
「ゲットでバイホっだな」
「ヤリヤリ、へへへ」
「マジ、イコッ」
会話を耳にした僕はコロッケを口からポロポロと溢していた。言葉の意味を辿るよりも先に「よもや、何で自分はここにいるのでしょうか」と意味不明な疑問を脳内に投げかける僕。
ガラガラガラ、音にビクッと振り返ると「アゲマソ屋」の主人が閉店時間でもないのに、早々と手前のシャッターを閉め始める。翌々見てみると、裏通りには僕と傍らのファンキーガール、そして凶悪犯面4名の姿しか見受けられない。久しく味わったことのない恐怖が僕の胸を占めるのに、そう時間は掛からなかった。気が付けば顔の筋肉が笑顔のまま硬直し、足は根を張った植物みたく一歩も動けず、体中は痙攣に似て、ぶるぶる寒気を伴い震えている。そのくせ頭だけはやけにシーンと水を張ったように、冷静に相手のレベルを把握し、一心に恐怖を胸に打ち続けている。傍観者なのに、もしかしたら当事者になるかもしれない。ここでどうこうする暇は皆無。動いたら負け、否、駄目!僕の脳内は今までに聞いたこともないような派手に打ち鳴らす警鐘を唱えていた。