ひとりでせいかつ

どうやら僕はこの世界でひとりぼっちになってしまったようだ




僕はドアを開けた。ドアの開く音が耳でやけに響いた。
僕はドアを閉めた。ドアの閉じた音が心でやけに木霊した。
僕が歩く。すぐ後で廊下の軋む音が僕を追いかけた。
僕が立ち止まった。音は僕のそばで半歩後に途絶えた。
僕は少し顔を顰めた。
左手を眺めた。先には生活感の抜け落ちたリビングが広がっていた。今日幾度も見渡した光景が酷たらしさを加えて眼前に広がっていた。常々見慣れたはずの我が家のリビングは嵐にでもあったかのように滅茶苦茶に荒らされていた。
机の上には湯飲み茶碗が粉々で4つ、新聞紙が破かれて一紙置かれていた。
椅子はすべて机の中から引き出されている。僕が今朝すべて引き出したものだ。
壁紙の至る所に黒っぽいシミが付着していた。僕の血液が染みついてできたものだった。
ところどころ切り裂かれた痕もあった。僕の爪痕は凄惨なものに見えた。
僕自身の手に目を落とす。
指先から甲に至るまで目のやり場に困るくらい痛々しい傷付き方をしている。
紫色に腫れ上がり、流れた血が固まって爪先で歪な固形物を形作っている。
いまは痺れて何も感じないものの指の骨が数本折れているかもしれない。
覚束無い足取りで僕は洗面台へと向かった。
僕は憔悴しきっていた。
道行く人が通り過ぎる人がみな振り返るくらいには憔悴しきっていた。