そんなデートをしておしゃべりをするだけの関係が一ヶ月ぐらい続いたでしょうか。はじめちゃんが難解な事件で忙しく、生徒会の仕事も演劇部やミステリー研究会の活動もない時には、わたしは必ずおじさんとデートするようになっていました。
(あの頃、はじめちゃんは大きな殺人事件が立て続けに起きてて殆ど出掛けてたよね。そういえば剣持警部に呼び出されてたみたいだけど、剣持さん元気にしてるのかな)
 ほぼ毎週だったと思います。土曜日と日曜日の昼前には駅前で待ち合わせて、おじさんの運転する黒い外車に乗って街とか海に出掛けていました。楽しくおしゃべりして一緒に過ごしていました。
 夜には高級なレストランで食事をする事もありました。わたしはいつもそうしているようにはじめちゃんや事件のことを話して、おじさんは面白くてウィットに富んだ話をわたしにしてくれました。わたしとおじさんの周りには聞いたことのあるクラッシック音楽が流れていて、真っ白いテーブルクロスの上には綺麗な花と蝋燭が灯されています。そういうちゃんとした正装でないと入れないお店です。周りを見てもわたしのような女の子は一人もいません。タキシードやドレス、身なりのきちんとした大人の人ばかりです。次々に運ばれてくるお料理はとても美味しくて、いけないことなんだけどおじさんに勧められるままにワインを飲んだこともあります。少しだけ酔いました。そういう時おじさんは、公園のベンチでわたしの肩を抱いて服の上から身体中を擦って介抱してくれました。背中だけじゃなくて、胸や脚やお尻も優しく擦るのです。「こうして体を風にあててるといいよ。すぐに酔いはさめるからね」って言いながら、肩に回した方の腕でわたしの胸を擦り、もう片方の腕でわたしの膝を押して少しだけ開かせて……ちょっとだけエッチな手つきでした。


 おじさんは話し上手なうえに聞き上手で、わたしのつまらない話を最後まで聞いてくれます。それにどういう分けか、はじめちゃんはよく知っていますが、わたしは口下手で大人しい性格なので自分から話すのが苦手なのに、おじさんの前だと自然と思っている事を口にしてしまえたのです。わたしが小さい頃からはじめちゃんを好きだった事、本当はもっともっとはじめちゃんと仲良くなりたかった事、出来ればはじめちゃんの恋人になって、将来ははじめちゃんのお嫁さんになりたかった事、でもはじめちゃんは玲香さんに気があるらしくて全然わたしに構ってくれない事などです。思っている事、悩んでいる事を全部打ち明けました。
 おじさんはそんな話をただの一回もおざなりにする事なく心から親身になって受け止めてくれて、適確なアドバイスをしてくれました。自分は美雪ちゃんの味方だからいつでも相談にのってあげるよとか、気晴らしに遠くまでドライブしようとか、はじめちゃんはまだ子供だからわたしの魅力に気づいてないだけだとか、振り向かせるために一度他の人と、例えば年上の大人の男性と付き合ってみたらどうだい、とか。そうすればはじめちゃんも意識するだろうし、もしかしたらわたしが新しい自分を見つけられるかもしれないって……。もしかしたら遠回しに何かを伝えようとしていたのかもしれません。わたしは「はじめちゃん以外の男の人と付き合うなんて考えられないです」って、きっぱりと答えていました。おじさんは、「それはそうだよね」って笑っていました。
(これはおじさんが言っていたのですが、おじさんが言うにはアイドルである玲香さんが可愛いのは当然だけど、わたしも今時には珍しい考えのしっかりした美少女で、それだけに貴重な存在なんだそうです。勿論わたしは、わたしなんか普通の女の子ですって両手を振って否定したけど、心の中では嬉しかった。だって、そんなふうに励ましてくれたのはおじさんだけだったから……)


 おじさんと二人で街を歩く事も多くなりました。たぶんこの頃には、学校に居る時間を除けばはじめちゃんと居るよりおじさんと居る時間の方が長かったと思います。殆どは土日でしたが、生徒会も演劇部もない時には学校帰りにドライブに出掛けたりもしていました。そんな時わたしは制服を着ています。
 楽しくおしゃべりをしながら街を歩いていると、おじさんは自然とわたしの肩に腕を伸ばしてくるようになりました。そんな関係です。最初は驚きました。だってそんな事をするのは恋人同士になったカップルだけだと思っていたからです。でもわたしは逃げたり嫌がったりはしませんでした。おじさんは優しくて包容力のあるとても素敵な男性だからです。心から信頼していると同時に憧れていたのもあったと思います。周りから見れば、わたしとおじさんの二人は年の離れたカップルと言うよりは、とても仲むつまじい父娘に見えていたと思います。
 実際、おじさんの年齢はわたしのお父さんと同い年で、肩に腕を回すと必ずと言っていいぐらいわたしの髪に触れてきました。「生徒会長も勤める美雪ちゃんには長くて黒い髪がピッタリだね。最近の女子高生はヘアカラーで染めてばかりで個性の意味を履き違えた子が多いけど、美雪ちゃんのは知的でとてもキューティクルだ」って言ってくれて優しく撫でてくれたりしました。
 わたしは嬉しくて、すごく恥ずかしくて、顔を真っ赤にして俯いてしまいます。おじさん以外の人から、綺麗だなんて言われた経験がないからです。おじさんはそういう女の子の扱いがとてもうまいのです。


 それからおじさんはわたしの背中をさりげなく擦ります。何度も何度も広く擦って、服の上から背中を満遍なく触り続けます。わたしは街の中をすごくドキドキして歩いて、すれ違う人がみんな、わたしを見ているんじゃないかって思えてしまうからです。そうやって身を固くしてぎこちない足取りで歩いていると、おじさんの手はゆっくりと背中の下側から腰へ、腰からスカートの上へと徐々に降りて来て、ついにはスカートに包まれたわたしのお尻をとてもとてもデリケートに触ってきます。歩きながら腕を回すふりをしてわたしのお尻を触るのです。
 以前、電車の中で痴漢された事があるけどそれに似ていると思います。はじめにスカートの上に這わせた手でわたしのお尻の形を確かめるようになぞって動かし、次に太腿の裏側で何度も上下に行ったり来たりをさせるのです。スカートの後ろ側は完全におじさんの領域になってしまいます。わたしの心臓はバクバクと音をたてています。でも立ち止まるわけには行きません。急に立ち止まれば、周りの人に不思議に思われてしまうかもしれないからです。そうして腰に回された腕でエスコートされながらわたしは、左右に揺れるお尻をまるで何事も無いかのように触られ続けるのです。


 恥ずかしかったです。とても恥ずかしいと思っていました。はじめちゃんはエッチだから知っているのかもしれませんが、わたしのお尻はむっちりとした安産型で他の女子生徒よりも二回りぐらい大きいです。ウェストは平均サイズ以下なんだけど、胸囲も他の人より大きいです。ブラジャーで締め付けても歩くだけで上下に揺れてしまいます。この事はわたしにとってコンプレックスでした。たぶんわたしの身体は、自分が思っているよりも早熟だったんだと思います。更衣室での着替え中にはクラスの友達からよく、「七瀬さんって真面目で勉強も出来るしお嬢様っぽい顔してるけどプロポーションはすごいわよね。胸なんてロケットみたいに突き出しててさ、学校で一番大きいんじゃないの。私が男子なら、絶対七瀬さんの方ばっかり見とれちゃうと思うな。だって七瀬さんのブルマー姿って、肌が白くて艶かしいからすごく扇情的よ。なんだか雰囲気とのギャップが激しいのよ」って言われていました。確かにその通りなのかもしれません。はじめちゃんもわたしの胸ばかり見ていましたよね。
 だから体育の時間はいつも憂鬱でした。グラウンドで五〇メートル走のクラウチングスタイルをした時などには、背後に居る男子達がブルマーを履いたわたしの大きいお尻をいやらしい目で眺めている気がしていたからです。わたしのお尻はブルマーを履くとほんとにむっちりとしていて、なんでわたし達の学校っていまだにブルマーなんだろうって嫌になってしまいます。


 そういう身体的悩み事もおじさんは知っていました。わたしは自分の肉体的悩みも打ち明けていたのです。多かれ少なかれ、男子もそうなのかもしれませんが、わたし達のような年頃の女子にはそういう悩みは必ずあるものなのです。無い人などいないと思います。そして、こういう悩みは同じ年頃の友達に聞くよりも、人生経験豊富なおじさんに相談するのが一番だと思っていました。お父さんやお母さんに聞けるわけがありません。
 おじさんも、「美雪ちゃんの気が楽になるならなんでも相談してくれるといいよ」と言ってくれました。そういう相談になるとおじさんは、特によく聞いてくれました。わたしの肉体的特徴を事細かに聞いてくるのです。「胸はいつ頃から大きくなりはじめたのかな」とか、「男の人に身体を触られた事はある?」とか、「寝る時はどんな格好で寝ているのかな」などです。カウンセリングみたいな感じだったと思います。
 わたしはおじさんの質問にはなるべく答えるようにしていました。秘密にしていたスリーサイズもおじさんにだけは正直に答えました。おじさんは、「すごいプロポーションだ。想像していたよりもずっと大人じゃないか。この歳からその数字なら将来が楽しみだね」と褒めてくれました。おじさんになら、そういう秘密を教えてあげてもいいと思えたのです。男女交際の経験がない事、キスをした事がない事、はじめちゃんとわたしは普通の幼馴染の関係でしかなく、わたしはまだ処女である事もおじさんには打ち明けました。おじさんはなんだかすごく喜んでいるようでした。


「意外だったよ。てっきりそういう関係なのかと思ってたからね。捜査中はいつも一緒だっただろ。最近の女子高生は進んでるっていうのか、性に対してオープンな所があるからね。そうか、美雪ちゃんはまだ処女なのか……」と言って、顔を綻ばせてわたしの手に指を這わせてきていました。わたしはドギマギしてしまい、「ええ、だってそういうのはまだ早いかなって……周りの人が経験してるからって自分まで焦るのはおかしいと思うの……それに、はじめちゃんはわたしなんかどうでもいいと思っているのよ。玲香さんの前になるといっつもデレデレしてばかりだもん」と答えて、おじさんの指を振り解く事が出来ませんでした。
 この時期、はじめちゃんが玲香さんと頻繁に連絡を取り合っていたのを、わたしはおばさんから聞いて知っていました。わたしには内緒で、はじめちゃんが玲香さんと会っている事をなんとなく分かっていました。そういう事は聞かなくても雰囲気で分かるものなのです。そうしてそのことに後押しされるように、わたしはおじさんと更に親密になっていったのです。