家庭教師ヒットマンREBORN!

むか〜しむか〜しのことじゃった・・・
とある村の外れに位置する傍目廃れたままの一軒家。
そこは夜中、どこからともなく現れた猫たちの薄気味悪い鳴き声が終始響き渡り、
村の人々はその廃屋を『猫屋敷』と呼び、恐れ、
昼間でも滅多なことがない限り近付くことはなかった。

ある日のこと、村に一人の娘が訪ねてきた。
「あの・・・」
娘はすぐそこで畑を耕していた青年に声を掛けた。
「・・・はい!なんでしょうか。お尋ねごとでしょうか。私に出来る事があっ・・・」
しおらしい娘の声に反応し、男は満面の笑みで振り返った。
「あ、あの・・・」
娘は顔を赤らめて、男に尋ねようとした・・・と、
「・・・・・・でかっ!?」
男は、鍬を足元に落とした。
男は耕したての土に尻餅をつき、目を丸くしたまま立っている娘を見上げた。
「(どんな大きさじゃい、これは)」
男は生唾を飲んだ。
自らの記憶を辿ってもこれ程の大女は見たことがない。
顔は反して大層な美人ではあるが、表情が無く何を考えているのかさっぱり分からない。

「な、な、なんね」
男は声を戦慄かせ、体を震わせた。
男の様子に気づいたのか、娘は少し顔を曇らせた。
「ここに・・・猫屋敷」
「猫屋敷!?よ、よ、妖怪!?」
男はいよいよ顔を青ざめると、悲鳴をあげながら地を這い、逃げ帰ってしまった。

「はあ・・・」
娘は嘆息した。
落胆した様子で、うな垂れ、肩を落としたまま、とぼとぼと農道を歩く。
「猫屋敷・・・」
呟きふと娘は顔を上げた。
気が付けば、向こう端から一人、少女がやってくる。
正確には、犬に跨った少女である。
白毛がふさふさした大人しそうな大型犬に載った少女は、
犬が歩くたびに頭のおさげがピョコピョコ跳ねた。
理知的そうな少女の瞳はくりくりとして、とても愛らしい少女であった。
「ああ〜」
と和むのも束の間、娘はハッとし、そばにあった草むらに身を潜めた。
今までの経験から、娘は自分が可愛いモノに好まれない事を知っていた。
娘は羨望の眼差しでその光景を目に焼き付けていた。

私はこんなところで何やってるんだろう・・・
今日はただ『猫屋敷』を見に来ただけなのに、
ただそれだけなのに・・・
これじゃ、いつものしてることとあまり変わりないな
大きな身体に、無表情の顔。
無口だし、可愛げも無い。
好きでこうなったわけじゃ無い。
ホントは可愛いモノが好きで好きで堪らないのに、
本当に好きで好きでしょうがないのに・・・
それは私と直接関わる事の無いモノ・・・
私はただ黙って、遠くから望むだけ・・・
それだけ・・・

草むらでしばし感傷に耽っていると、傍で草がざわめいた。
「忠吉さん、忠吉さん、どこに行くんですか?」
私は顔を上げた。
草葉から犬の顔が現れた。
「忠吉さん・・・って」
現れた少女はきょとんとした顔で私の方を見つめていた。

「・・・あの、どうしたんですか?そんなところで蹲って・・・」
「ああ、・・・別に大した事は無い」
体を出来るだけ小さくして、顔は成るべく伏せる。
出来るだけ、この少女を怖がらせないように帰してやろう。
このままこの草むらでしばらく時を過ごして、
猫さえ見れれば、私はとりあえず満足するんだから
少女をわざわざ怖がらせる必要なんて無いんだから・・・

と思っていた私のすぐ傍に少女が降りてきた。
「大した事ですよ。もうすぐ夜ですし・・・猫屋敷もすぐ傍なんですよ」
「いや・・・あの」
「さあ、立ってください。娘さん」
「あっ」
「立って」
言われるがままに私は立ち上げる。
立ち上がったら最後、目の前の少女は驚き、怯えて、いつものように逃げてしまうだろう。
「わあっ」
私は目を伏せる。逃げ帰るところはいつまで立ってもなれる事は無い。
出来るだけ見ないように・・・
「凄く・・・大きい」
「(ああっ)」
「でも・・・・・・凄くカッコイイです」
「えっ?」
私は目を開いた。
目の前の少女が瞳を輝かし、私の顔を眺めている。
「わあ、凄いです。初めて見ました。こんなに・・・カッコイイ人」
「ああ・・・」
「もう夜も遅いですし・・・泊るところが無かったら、私の家に来ませんか」
「いいのか・・・」
「はい!」