小説「カルピスウォーター」第2話




数分前・・・
「ここっていうのは、そういうことが一般的なわけ?」
僕は顔を上げた。少しきつめだけれど、愛らしいキュートな女の子の声を耳にしたからだ。声はすぐ隣から聞こえ、ふり返れば案の定、僕の傍らに一人華奢な体躯を黒服で包んだ女の子が立っていた。つやつや短め黒髪に、ここらでは見かけぬ奇妙な服装。強いて挙げるとするならば、スーツとゴスロリの中間点を彷徨うような服のファッション。なんだか奇妙にして、なんとやら奇異ではあったけれども、それは彼女の雰囲気に、肌に、何故だかしっくりと、きまっていた。
「ホント、おまえらファッションに関しては良い線逝ってるけど、全く持って・・・行動が伴ってないわ」
僕は、アーケード商店街裏通りのやや奥まったところにある名物「アゲマソ屋」の熱々コロッケを頬張っている最中だった。ここのコロッケは本当に安くて、本当に旨い。特に「ジャガイモのホクホク感がたまらねえ」と声に出しコロッケを食す僕は、姉貴曰く「お前、昭和臭い」と言われる要因の一つにも挙げられるわけだけれど、僕の真横にいる彼女は別段そういう質問を僕に投げ掛けたわけではないだろう。第一、この質問の対象は、「おまえら」である。僕は「おまえ」。該当しない。そのはずだ。無論コロッケのことをいうのならば、意味が甚だ分からないにせよ、何となくは伝わるものがあったとしても、残念ながら質問の主は、僕のほんのすぐ傍で、全く別の方を向いて、公然と口論に勤しもうとしている。
ということは、と僕は彼女の背中越しにそっと相手方の方に視線を移す。「げっ」唖然とした僕。彼女が対峙していた「おまえら」怖そうなお兄さん4名様は見事にアゲマソ屋に通ずる裏筋通りを塞いでしまっていた。お兄さん方は皆一様に制服からはほど遠い凶悪じみたファッションに身を包み、ある人が舌を出せば、ある人が猛烈に眉間にしわを寄せ、ある人が突如笑いあげると、いきなしの罵声が飛ぶ、という本当に普通では考えられないような存在感を醸し出している。この4人は「普通」・「一般的」という単語からはもっともかけ離れたタイプの人種である。そう、僕は素直に思えた。頷いた。