これで行こうかな

なんかいろいろ書きますね、自分。最初の出だしです、どうぞ。
(未だ下書き*途中を省いてます)それでも見たい人はどうぞ。












『〜事件(仮)』
「涼しくなってきましたね。」
芹沢は言う。暮れ方の空が泳ぐ時刻、薄い浴衣着を身に纏う彼は、木の匂い立つ縁側で鷹揚胡座をかいていた。瞼は静静と閉じられたまま、右手の団扇だけが滑らかに空を撫でていく。恰も遠くを望むように、胡座で背筋を丸め、首を伸ばして微笑む彼は、端から見れば、庭前の景色に快意を覚える男の姿とも目にとれる。実際、築地の前で揺れる葉末と同じく、微かに揺れる芹沢の顔は、事情を知る私でさえも、懐疑することはあった。
芹沢は盲であった。明き盲とは異なり、瞼は閉じたまま微動もしない。生まれついての付き合いだ、と彼は訊かれたならば、そう答えて笑みを浮かべていた。その後に、「この質問にはもう慣れました。」と言って、顔を俯く。人々は大抵そこではたと会話を閉じ、閉口し、俯く、とも後に彼から酒席の場にて聞かされていた。
ふいと湧いた肴に苦笑していると、芹沢は飄逸な表情で縁柱に身を預けこちらを眺めた。
「何か思い出しましたか。」
少し間を置き、私は「ああ、君との思い出を少々ね。」と言う。それを聞き、芹沢はふと口角を上げ、懐古に浸った表情を見せる。
「へえ、岸谷さんと僕の思い出か。」と、暫時「もしかしたら、いまこの辺りを吹いている風が、岸谷さんの思い出を掘り起こしてくれたのかもしれませんね。」なるほど。
「ほお、この秋風がかね。」
「はい、沈殿している記憶を舞いあげるのですよ、以前吹いた風は。僕と岸谷さんの出会いもこんな風な秋風が吹いていた記憶があるのですが。」
「秋風か。秋風の香。」
「はい、生憎ちんちょうげの花は春ですが。」
「君、それは沈の字しか合っていない。それにまったく今までの話と関連がない。」
「私たちの出会いには優しさがある、とそう言いたかったのですよ。」
そこで芹沢ははにかんだ。「たまらん。」私は再び苦笑する。
軒先に生えている沈丁花は今の時期、なにもせずにただ、萎れて、草臥れている。それが春になると香しい芳香を浮かべ、庭先を春風と共に春の風情に彩っていく。今はただ腐れるばかりの植物が、冬の手前、芽を出し始め、まま越冬。そうして春に咲き誇っていく。私は暫しその情景を頭に思い描いた。折角の秋の風情が目の前にあるのに、ひねくれ者の私には、その情景が目に浮かぶようだ。秋風が眼前の枯れ葉を散らしていった。私が思い描こうともそこは秋。尽きる灯火は庭を彩る。
「ところで。」
と、芹沢は閑話休題の間をとり、一呼吸後、私に対しこう告げた。
「岸谷さんが、僕に用があると言ったら、酒か余興か庵内で僕がするお仕事ぐらいじゃないですか。」
ふと、考える。私はそんな奴か。
「はい、酒と余興と仕事です。」
うむ、どうやらそうらしい。これはこれで、これから本題に入ろうとする私にとっては、仕事がしやすいというものであるのだが、如何せん、釈然としないものが沸々と胸を踊る。私は一つ咳払いをした。
「うむ。」そう言い、


(隙間・・・ちゃんとこの後で書くのです。)


私はここに来る前に幾度も経験していたはずの躊躇いに今更ながら覚え、震えた。
「どうしたのですか。」
彼の声が耳に入る。彼はあさっての方向を向き、縁柱に身を撓垂れたまま、曖昧な色の夕日に当てられている。着物の襟がはだけ、白く薄い胸が覗いた。細身の体躯が太陽に透け、思わず陽炎を被らせてしまう。思うところが鈍ってしまった。私は彼に悟られないよう、静かに唇を噛む。暫し呼吸を繰り返す。
実際、私はここに来るまで、彼に今回の事件を持って行くべきか否かという問題で苦艱していた。唯でさえ、盲目である身。まともに歩くことさえ侭ならず、未だ大海を知らぬ若男でもある。まして、彼は私の愛すべき風情ある一友人として、私がこれから扱おうとする事件に、危険に密な事件に、死人が出るかもしれない、それが第一に彼だったとしたら。そういう事件に彼を巻き込んでしまって、果たして良いものだろうか。悪いに決まっている。だが、しかし・・・ 私は眉間を八の字にする。
「良いですよ。」
はっと私は顔を上げた。彼がいた。笑みを浮かべている。ああ。刹那、辺りを風が巻き上げた。


(何か一文たんないような気がする)


巻かれた紅が鮮やかに空へ舞い上がり鮮明。目に映る。樹本来の静まった黒茶に、舞い上がった紅が雪崩れ落ちるとき、彼、芹沢 呪の躯はその風景にどっぷりと浸るように、消え、映えた。
「大丈夫です。」
彼は相も変わらず、不適な微笑を顔に湛える。こんな華奢な体躯で、何も知らず、何も覧ずに、だからと何も聞かず、彼は答えたのだ。先程まで彼が抱えた忌む陽炎の姿は、すでにどこにも見あたらず。彼は紅を後ろに、白く輪郭を持つ。
「岸谷さん、涙の臭いがします。」
彼は言った。芹沢は頷いた。安直だった私は、自分を恥じ、彼を同伴することに決めた。

()内は、自分のぼやきです