小説

書きました。どうぞ。面白いかどうかは分かりませんが。
追記、現時点推敲なし。誤字脱字あるやもしれません。そこらへんは悪しからず。(創作時間2時間)



『とある夜の出来事』


三日月 凛はおもむろに辺りを見渡した。小綺麗に整頓された六畳ほどのリビング。特別変わった様子は見受けられない。テレビに向き直ると、コメンテーターが学者風情を臭わせた物言いでカメラの前に語りかけていた。
盗聴の実態、という特集だった。バイトから帰宅し、程なくつけたテレビ番組にしてはやや固めな感じだ。本当はこんな番組ではなく、馬鹿馬鹿しいコメディで、部屋の雰囲気を明るいものにしたかったのだけれども、今の時間帯はお座なりなニュース番組がほとんどで、どこも大して変わらない内容である。
凛は立ち上がり、浴室へ向かっていった。長いこと一日を過ごすと、汗がTシャツにへばりつき気持ち悪いものだ。シャワーで汗を軽く流し、髪を解いた後、冷蔵庫からビールとつまみを取り出し、テレビの前に座り込む。ふかふかのクッションを尻に敷き、パジャマ姿で、丸めた布団の固まりに身を預ける。やや経ち、凛はくつろいだ表情でテレビを眺め始めた。
番組ではストーカー犯罪の再現ドラマをやっていた。ストーカー男を演じる俳優さんが女優さんをつけ狙い、イタ電、プレゼント、尾行と行っていく。展開は徐々にエスカレートしていき、過剰になっていくイタ電・プレゼント・尾行に加え、盗聴・盗撮。警察に連絡したのも相手にされず、困った顔をした女優さんに後日訪れたのは、殺人というバッドエンディング。
あり得ない展開で綴られたドラマが終了した後、スタジオにいる幾人かのコメンテーターが、口々に当たり障りのない感想を述べていく。非現実的すぎて、実感が湧かないというのが正直なところだった。ストーカーが殺人まで行き着くことはない。そう思う。仮にしもストーカーという犯罪は、愚かではあるにせよ、その根本には愛がある。愛する人を無闇に殺したりはしないだろう。
凛は一口ビールを飲んだ。
「続いては、あなたの家もご用心。すぐそばに盗聴器が仕掛けられているかもしれませんよ。」と続いて作業着姿の男がスタジオに現れた。
「ご紹介します・・・」現れた男は、どうやら盗聴器探しの専門家といったところらしい。専門家は醜い脂ぎった顔で緊張に引きつった笑いを浮かべながら、司会者のトークにコクコクと何度も頷いていた。
画面が変わり、住宅地を背景に、専門家とタレントの顔が写る。どうやらスタジオからVTRに移ったようだ。前振りも束の間、二人は多数の取材陣を引き連れ、とあるマンションの一室へと入っていった。どこにでもある普通の家と紹介されているにしては、やや古びた印象を受ける。電灯の薄暗さが尚のことその家を幸薄いイメージに変えていた。専門家が懐からおもむろに機械を取り出した。少し大きめの携帯電話のようだ。専門家が室内をその機械で、室内の至る所を撫でるように当てていった。コンセントに差し掛かったとき、機械音がやたらと甲高くなった。コンセントのカバーを取り外してみる。程なく盗聴器が現れた。そばにいたタレントがこの家の主人にインタビューする。憮然な顔でこの家の主はインタビューに答えていた。
マスコミの言うことは70%信じない方が良い。高校時代、隣の席で誰かがそんなことを言っていた。そういう記憶がある。凛はつまみを一つ口に入れた。その人は自棄にお喋りが好きで、いつも在りそうなことも在らぬことも、綯い交ぜにして話していた。そういう記憶もあった。あのとき偶然耳にした台詞は彼の30%弱に含まれる真実の言葉であった。
と、今なら信じることができる。それもまた戯言だとしても。
気がつくと、画面はスタジオに切り替わり、そこでは専門家が盗聴器のありそうなポイントを指摘していた。番組側が用意した建物の見取り図に棒を指しながら、順に説明していく。コンセントが危ないだの、テレビの裏側が危ないだの、色々と詳しく説明がなされ、思わず興味をそそられるものがあった。
「古いアパートなどは特に注意が必要です。意外なほど簡単に入れて隙間も多いですから。屋根裏部屋も危険です。」
なるほど。確かにそうだ。思わず頷く。
と、そばでコトンと何かが倒れる音が聞こえた。
それは些細なほどに小さな物音だった。いつもならコメディの馬鹿笑いに紛れて気にもしないほどの小さな物音。だが、この時間、この場所に於いて、その物音はやたらと大きく室内に響き渡っていた。凛は怪訝な顔で振り返った。テレビでは司会者が、なにやらコメントを述べていた。テレビ以外の音ははたと止んでいる。凛は一層表情を険しいものに変えていく。視線が天井へと集中する。
やばい・・・
そう、僕は思った。
屋根裏部屋で、僕は一人身を震わせた。(了)

どうでしたか?