ここに小さな残酷話でも書いてみよう。


【グロテスクに注意、イヤ寧ろ私の精神構造を疑わないで欲しい代物です。】

『涼やかに、小波に、お休み』


ある日、ケヤキの木陰に包まれた小さなバス停で、女の子が一人ポツンと立っていた。白のワンピースに、赤い帽子をちょこんと乗せ、涼しげな顔でしずしずと向かい側の家を眺めている。女の子の両手には、体に似合わない大きさの買い物かごが一つ持たされていた。かごの中には、小さなメモ用紙が一つ。小汚い鉛筆書きで、「にし、5、9じ、おしごと」と記されている。
女の子がしばらくの間、風吹くバス停で立ち続けていると、右端から一台のワゴン車が姿を現した。ところどころ青色の剥げた見目にもオンボロなそのワゴン車は、多少むりやりに山の凸凹道を下っていた。ワゴン車は女の子の存在に気づいたようで、途中スピードを落とすとバス停の真ん前で立ち止まった。窓が開き、次いでそこから、運転手さんが顔を覗かせた。運転手さんは、ちょっとお肉太めのメガネをかけた大分年上のお兄さんで、木陰に立ちつくす女の子を見るなり、優しい目元で微笑んだ。
「きみは隣町へおつかいかい?」
「・・・・・・」
「乗せていこうか。」
「・・・・・・」
女の子の無言を承知と受け取ったお兄さんは、女の子をワゴンの荷台に追い立てると、おもむろに取り出した金属製の手錠で、女の子の両手を拘束し、そのまま荷台に放り込んだ。荷台には、すでに数人の女の子が手錠にガムテで縛られたままで、荷台に寝転がされていた。
「きみはいい子だったから、特別にガムテープはしなかったよ。」
お兄ちゃんは、愚夫愚夫と笑って、荷台の扉を閉じた。
荷台の中は先ほどの木陰に比べて、目眩がするほどの熱さだった。夏場の密室ということだけでなく、人肌が発する狂った熱もまた、荷台の気温全体を押し上げているようだった。現に、以前から荷台に積まれていた女の子の内、何人かは気絶していて、何人かは異様な汗の中、口元を大きく広げて、「ハアハア」過呼吸していた。車の乱雑な運転もあって、誰かが吐いた胃液が荷台の底に広がっていった。異臭、熱気、狂気にお兄さんの希望も少々、加えられてワゴン車はひたすら道を走っていた。
突然、荷台に灯りが差し込んだ。希望の光とは全く異なった絶望の先にある光。その光が誰かによって塞がれた。
「はい、みなちゃん。到着しましたよ。」
お兄さんは荷台に押し入ると、一人一人大事そうに大儀そうに車の外へ、抱えては下ろし、抱えては卸し、肉体労働に汗をかいた爽やかな笑顔で、作業に没頭していた。やがて、先ほどの木陰の女の子もお兄さんに抱きしめられた。
「きみは本当にいい子だ。・・・楽しみ♥」
歪んだ笑顔。お兄さんに抱えられた女の子は、全員すぐ傍に置かれた荷車の中に一人一人積まれた。身動きが取れないよう棺桶状になった荷車は、女の子を入れた後、お兄さんの手によって、何重にもロープでぐるぐる巻きに梱包される。得てして、数人の女の子は、みな一様に、それぞれの個室へと運ばれていった。


それから三日経った。コンクリートと鉄扉に囲まれた立方体の部屋に小さな電球が一つ点る部屋。その部屋の中央部、そこにはあの木陰の女の子の姿があった。女の子は相変わらず立ち続けていた。白のワンピースに、赤い帽子をちょこんと乗せ、視線は虚ろに、無機質なドアの色を眺めている。ドアの前にはパンが六枚、飲み水の入った皿が一つ置かれていた。その内二枚のパンはすでに黴び始めていた。日中は食料が送られてくる以外、大して変化はなかった。偶に覗き穴からお兄さんの顔が現れたりする程度のことだった。最初は笑みも、下を覗くと悲しげに去っていくお兄さんの顔。
夜、隣から女の子の断末魔の悲鳴が聞こえてこようとも、工具を操る際に出る金属音がしたとしても、お兄さんの興奮する声が響いたところで、木陰の女の子は相も変わらず、立ったまま、扉を目視続けた。


数日後、お兄さんはその部屋を訪れた。


薄明かりが点った天井。女の子にしては少し大きめの個室。パンに飲み水。中央では、一人。彼女は見つめていた。それはドアから入ってきた僕を見るわけでもなく、その後ろを見るわけでもない。ただ、本当に虚ろに、僕の遙か彼方、向こう側。僕には全く見えないところを覗いてることは、すでにここに来た時点で、察していた。他の女の子を食い尽くしてしまった僕が最後に残しておいたメインディッシュ。そのはずだった。今ここにきて、ようやく僕は理解した。彼女は・・・僕のものじゃない。


お兄さんは木陰の女の子と一緒に部屋を出た。続く廊下からは、濃い血の臭いが溜まっていた。すべて肉塊となってしまった彼女たちが発するシグナル。お兄さんは女の子の手を力強く握りしめた。女の子は何もしなかった。
やがて、二人は連れて来たときと同じように、ボロボロのワゴン車に乗り込むと、程なく出発した。ひたすら海辺に沿って走っていると、先の方に崖が見えてきた。ちょうどそこから夕日が輝いていた。お兄さんは小さく息を呑んでいた。
「・・・綺麗だ。」
ふと横を見ると、女の子の姿はなかった。助手席には小さな赤い帽子が一つ置かれているだけだった。帽子に夕焼けが差していた。お兄さんは小さく微笑んだ。車はスピードを上げ、しばらく後、崖から勢いよく飛んでいった。


【感想】
作った自分が言うのも何ですが、
「気持ち悪い。わけわからん!」
製作時間、3時間30分前後・・・・・・感想のある人はどうぞ。
【反省】
次はまともな話、書きます。