終わりの告白

 『何事にも終わりはある。』
常識というよりも、法則。この世の理として当たり前に存在している。物事が立てば、対にそれは極自然に収束するという出来事。私も当然ながら『終わり』に対する一応の知識については理解してるつもりだ。
例えば、いま私が席について、周囲の生徒とともに受けている高校の卒業式。この卒業式にも、確かに一つの『終わり』は存在している。それに卒業式という儀式を行うことで今まで過ごしていた何かに『終わり』が告げられることも、確かなことであると。そう、私は思う。
祝辞が流れる間、伏し目がちだった私は、顔を擡げ周囲に目を移した。私の席から、左に4列、右に2列目のところ。西野祐介は、祝辞に耳を傾けながら、舞台の上のクラス担任を真っ直ぐな姿勢で見つめていた。黒くさっぱりとした短髪に、顎のシャープなライン。長くしっかりした首筋を辿っていくと、彼の広い肩幅にぴったりとした制服のラインが現れる。
私は、彼の後ろ姿を眺めていた。というよりも、私はここ一年ひたすらに彼の後ろ姿を眺めていた。実際のところ、私は西野祐介という存在に心奪われていた。
最初に彼のことが気になり出した瞬間・状況というものは、今でも私の記憶の中で非常に曖昧である。不明瞭というか、漠然というか。とにかくいつ頃からか、私は何となく彼の背中を目で追うようになっていた。何とはなしにクラス内で囁かれる彼の噂に耳を止めるようになっていた。あっという間だった。窓辺の風景に同化していたはずの彼の姿が、輪郭を描き出し始めたとき、私は少し戸惑いを感じていた。「ええ、なぜ・・・」そう悩む時間さえ与えられなかった。彼の求心力に巻かれ始めたのもつかの間、私の感情はラジカルに彼の元へと傾いていた。
例えばその頃から、私が毎晩書き連ねている日記の内容にも、変化は如実に現れていたりする。タイトルを書き込んで、私のことをちょこっと書き込んだ後に、彼の行動、言動を数ページに渡って綴っていく。最初は適当に扱っていたはずのこの日記に、私は並々ならぬ精力を注ぎ込んだ。日記帳に記される事柄は日に日に増大の一途を辿り、今までにA4ノート7冊分を彼の事柄で消費した。
それだけに止まらず、3ヶ月ぐらいした頃だろうか。私は彼の家の周囲を頻繁に出歩くようになっていた。学校から帰ってくると、すでに準備してある荷物を担ぎ、彼の元へと向かう。何かあったときのためにと、荷物の中身は常にチェックを怠らなかった。懐中電灯に、十式ナイフ、工具類に、カメラなどなど・・・。用途によって使い分けられる様々なものをバックに詰め込んでいた私は、時に留守中の彼の部屋に忍び込んでは、彼の持ち物を物色したり、電話線に盗聴器を仕込んだりと、大忙しだった。
私の行為は、ハイリスクではあったけれども、それを補って余りある見返りがちゃんと用意されていた。私は、いつもの散策から自宅に戻ると、壁際に置かれた受信機の再生ボタンを押した。スピーカーからはいつもの通り、彼の肉声が流れ出した。
彼の部屋の音は、至って普通のものだったと思う。もちろん、普通の男子高校生という意味で。ゲームに興じる音や、彼が電話口で誰かと会話する肉声。ラジオの音楽だったり、彼のため息だったりと。彼の部屋で奏でられる様々な音がスピーカーを通して、私の中へと染み込んできた。さながら流れる音楽に心を奪われたような、狂信的な音に体を乗っ取られたような。そんな感じだった。(続く)



(制作過程)彼に心奪われて、半年経った頃だろうか。ある日、学校から帰宅した私は、自分の部屋でほんの少しの違和感を感じ取った。それは些細に、カーテンの皺が朝の記憶とは微妙に異なっていただとか、ドアノブの握り目が少しだけ脂っこいだの、